
アンドリュー・ベイヤーの名著『勝ち馬を探せ!!』(メタモル出版)の第6章「馬を見る目」は、クレムという新聞記者の話で始まります。要約すればおよそ次のようなエピソードです。
――クレムという元ボクサーの新聞記者が、ある重賞レース前日に催された関係者の食事会の席で、最有力馬の調教師に「あなたの馬、追い切りの脚さばきが少し変だったけど」と質問した。「そんなことはない。私は気づかなかったけど」と調教師。レース当日の返し馬、その馬がカニ歩きで頭を下げていたため、負けると考えたクレムは、良く見えるほかの馬の単勝に賭けて見事的中。最有力馬は3着だった――
まあ、何てことはないエピソードですが、ポイントはクレムが「元ボクサー」であったという点でしょう。競馬を始めた当初、彼が不思議でしかたがなかったのは、元気に見えて勝った馬がその翌週には見栄えせずあっさり負けてしまうという現象でした。同じ馬が1週間でどうしてそんなにも変わってしまうのか? 考えあぐねているうちに、元ボクサーだった自分にも似たような経験があったことに思い至ります。ある日トレーニングで1マイルを6分で楽に走れたのに、翌日は7分で走るのに四苦八苦したことがあったなぁ。あれってどうしてだったっけ?
彼が思い出したのは、もちろんランニングのことだけではないでしょう。競走馬と同じように、ボクサーもまた不屈の精神で自らの身体を究極に仕上げなければ、どんな試合であれベストパフォーマンスを発揮することはできません。ボクサーだった頃の自分と競走馬の姿を重ね合わせた彼は、何か重大な発見をそこでしたはずです。その後クレムは熱心にパドックに入り浸るようになり、そのうち調教師のもとで働き始め、馬の身体に関する知識を蓄えました。だからこそ、直接の管理者である調教師でも気がつかない、競争馬の脚さばきのわずかな異変にも気づくことができたのでしょうね。
馬を見る目――これは馬主にとっても競馬を予想する僕たちにとっても永遠のテーマであると言えます。そして、馬を見る目を養うことは、人生において競馬を長く愉しむためのアプローチの一つとして、チャレンジする価値のあるものです。早くから素質や適性を見抜き、将来のGIホースを見つける愉しみとしても魅力的ですし、競走馬の現在の体調や馬体の充実度――究極に仕上げてきたか、体調が下降線を辿っているのではないか――をずばり見破り、馬券に繋げる予想のファクターとしても絶大な武器となることでしょう。もちろん、賢明な方ならお分かりの通り、馬を見る完璧な目など手に入れることは誰にだってできません。でも、たゆまぬ努力の積み重ねをしていくことで、少しずつ馬を見る目を養うことはできます。もちろん結果を出すには、勘やセンスも必要ですけどね。
ということで、僕が注目している若き「馬体派」のエノさんとでぃらんさんへのインタビューをお届けします。題して「馬体に夢中!!」。嬉しいことに、このお二人には、今後もこの「若駒戦の密かな愉しみ」のパーソナリティとして、多くの企画を担当して頂けることにもなりました。馬体を見る目だけでなく、馬券のセンスに自制心に、そして何と言っても競馬を愉しむそのユーモア溢れるお二人のスタンスに、僕は最も共鳴します。もちろん実力は折り紙つき。お二人のブログのPhotoパドック・追い切り評価は必見です。
◉エノさんのブログ「あの仔に夢中」

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→本編は「若駒戦の密かな愉しみ」でお愉しみください!